2026年は組織犯罪が、地政学的な競争、紛争、サプライチェーンの混乱を利用したり、新興テクノロジーを巧みに駆使したりして活動範囲を拡大し、新たな国や地域にも影響を及ぼすでしょう。合法・非合法を問わず、麻薬、偽造品、重要鉱物、エネルギーといったグローバル市場が急成長しています。その結果、組織犯罪は政府に挑戦し、国境を越えた巨大な犯罪組織を構築しようと目論むでしょう。2026年、組織犯罪はビジネスに対し、セキュリティ脅威、不正リスク、サイバー脅威をもたらし続けるでしょう。

組織犯罪の現状 

違法経済の真の規模は明らかではありませんが、マネーロンダリング、麻薬取引、密輸、贈収賄、人身売買、詐欺、窃盗、偽造、環境犯罪、サイバー犯罪などの組織犯罪は、世界のGDPの3~4%に相当する規模(2026年時点で4兆米ドル以上)と推定されています。 組織犯罪グループは、合法的な国際貿易を支える輸送・金融・通信ネットワークを悪用しています。従来の組織犯罪より階層構造が薄く、多国籍化やネットワーク化が進み、リスク低減と利益最大化のために新興テクノロジーを迅速に導入しています。 

組織犯罪は、世界で発生している暴力事件の大きな割合を占めています。全世界の殺人事件の約4分の1、ラテンアメリカに至っては約半数が組織犯罪によるものです。麻薬・人身・武器密輸などの違法取引は、安全保障や社会の安定を脅かすテロ組織、反政府勢力、過激派組織の資金源となっています。さらに、組織犯罪グループは、自らのビジネスを守り、政治に影響を与えるために、標的を絞った政治的な暴力も行っています。

組織犯罪対策を困難にする地政学的な争い 

地政学的な争いは、組織犯罪の状況を大きく変えつつあります。政府との協業や妥協により、組織犯罪グループは他国において免責状態で活動できるようになっています。一部の政府は、「愛国的」サイバー攻撃や移民密輸など、自国の地政学的な目的に沿う犯罪行為を容認しています。また、組織犯罪グループを雇い、反体制派への攻撃や、関与を否定できる形でのサイバー攻撃・破壊工作を世界的に実行させ、組織犯罪を外交政策の手段として利用する国もあります。 

政府間で組織犯罪対策の利害が一致していても、地政学的な対立が障害となり得ます。法執行機関同士の協力が、貿易・安全保障における交渉材料として扱われるリスクもあります。さらに、国際的な制裁によって合法的な収入源を断たれた政府が、違法な活動に手を出すケースもあります。例えば、旧 シリア政権のアンフェタミン(覚せい剤)密輸、ベネズエラのコカイン密輸疑惑、北朝鮮のサイバー犯罪などです。


組織犯罪は企業の健全性に新たなリスクをもたらす

2026年、企業は組織犯罪のリスクを低減するために、強固な体制を構築することが必須となります。金融犯罪やサイバー犯罪は規模を拡大しやすく、リスクも比較的低いため収益を得る手段として広がっています。東南アジアで急増しているサイバー詐欺拠点がその一例です。 一方、米国が麻薬カルテルを「テロ組織」として指定したことで、2026年には新たな法的・コンプライアンス上のリスクが生じ、企業は取引先のデュー・デリジェンスやスクリーニングのプロセスを見直す必要に迫られています。

組織犯罪は、汚職を糧として勢力を拡大しています。汚職があることで、政治的な圧力が弱まり、組織犯罪グループが合法的な経済活動に入り込むことが容易になります。本来、民主主義体制は組織犯罪に対して強い抵抗力を持ちますが、近年の民主主義の後退により、組織犯罪の影響を受けやすくなっている可能性があります。2026年には、組織犯罪グループが政府の監視を回避するために、積極的に賄賂を使うと予想されています。


組織犯罪は国家安全保障への脅威を増大させる

金銭的な動機に基づいて活動しているものの、組織犯罪グループは汚職・暴力・脅迫を通じて政府機関に挑戦し、支配しようとする傾向が強まっています。役人を買収したり警察の力を上回ったりすることで、組織犯罪グループは、特定の地域を支配し、違法なビジネスを妨げられることなく展開できるようになります。また、脆弱で紛争の影響を受けた国々が、組織犯罪の標的になりやすくなっています。人身売買、麻薬取引、天然資源の違法採取などの違法活動がこうした国々で行われる可能性が高まっています。

こういった動きに対し、国家はより強硬な戦略で対応しています。近年、ラテンアメリカや東南アジアでは、組織犯罪対策として、政府が非常事態宣言を発令しました。米国はテロ対策の手段を応用し、麻薬密売人とされる人物を標的にした空爆など、麻薬犯罪に対する戦略を刷新しています。組織犯罪グループを抑制する効果はあるかもしれませんが、こういった戦略は国内の反対勢力を煽り国家の安定を脅かし、かえって不安定化を招く恐れもあります。  

 

    ビジネスへの示唆

  • 企業に対する組織犯罪による脅威の増大:2026年、組織犯罪は地政学的な争いと技術をめぐる競争を巧みに利用し、安全な避難場所を確保し、新たなビジネスモデルを構築しながらグローバル化を続けます。企業は、組織犯罪グループによる物理的なセキュリティと情報セキュリティ上の脅威に直面するでしょう。新興テクノロジーにより組織犯罪グループの能力が強化され、その脅威はさらに深刻化していくでしょう。
  • 強固なコンプライアンスが不可欠:企業は、汚職や制裁対象者・団体との関わりを避けるために、ABC(贈収賄防止)、AML(マネーロンダリング防止)、CFT(テロ資金供与対策)を整備・運用し、取引や関係性を慎重に審査する必要があります。
  • セキュリティは最優先課題:組織犯罪グループが、サイバー犯罪や金融犯罪にも手を広げていますが、依然として主な収益源は、麻薬取引、人身売買、違法な資源採取、誘拐・恐喝、窃盗などの従来型の犯罪です。組織犯罪グループは、新たな標的や市場、そして政治的・治安上の空白地帯を狙って活動を広げ続けるため、危機管理担当者は常に警戒を怠らないことが求められます。

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