2026年は、「コンピューティング能力」を巡る競争が、地政学とビジネスのゆくえを左右するでしょう。最先端AIの開発や展開に必要となる十分なコンピューティング能力を持たない国や企業は、取り残されるリスクに直面します。しかし、コンピューティング能力の確保には、技術・インフラ・人材が鍵となります。2026年、企業にとってコンピューティングに関する最大の課題は「許可」すなわち法的、政治的、地政学的な許可となるかもしれません。 
  
コンピューティングとは、データを処理するために使用されるハードウェア、ソフトウェア、インフラストラクチャを含む技術を指します。高度なマイクロチップによる計算から、コンピューターが使用するソフトウェア、ネットワーク、ストレージ、電力、水インフラに至るまで、現代の経済を機能させるあらゆる要素が含まれます。 

この競争は、基本的に「数」のゲームです。より多くのコンピューティング能力があれば、より複雑なアプリケーションを実行でき、より洗練された製品を生み出し、より価値ある知見を創出できます。時間が経つにつれて、コンピューティング能力を持つ側と持たない側の差は広がっていきます。なぜなら、投資や優秀な人材は、常に最先端の技術がある場所に集まるからです。 

当然ながら、この競争の主導権は政府が握っています。計算能力を支える最先端のハードウェアとソフトウェアへのアクセスは、地政学的な条件に左右されています。設計ソフトウェア、製造ツール、重要鉱物、マイクロチップ、量子コンピューティングに対する輸出規制やそのほかの規制・国家安全保障上の障壁は、すでに不平等な能力の格差をさらに広げています。 


2026年、コンピューティング能力を確保するには、資金面と同様に外交力が不可欠になるでしょう。分散型AIを導入している企業にとっては、地域によって性能にばらつきが出たり、コストが上昇したり、高度な計算能力にアクセスできる市場がどこなのか不透明になったりと、さまざまな課題が生じます。 

デジタルを支える物理的な基盤  

コンピューティング競争の根底にあるのは、物理的な制約です。電力容量や水資源の供給といった制約が、この競争を左右しています。世界中で進むデータセンターの建設は、インフラの限界や環境への影響、地域住民の反対などの課題に直面しています。その結果、コンピューティング競争は、より大きな社会的・政治的リスクを伴います。電力と水資源をめぐる争いが、世界中で建設プロジェクトに対する社会の反発を招いています。そして、AIが労働市場に与える影響への懸念は、さらなる反発を招くでしょう。企業がコンピューティング競争で先行者利益を得ようと急ぐ中で、他業界が「急ぎすぎて物事を壊し、社会的な運営許可を失った」教訓に注意を払う必要があります。 


コンピューティング能力の確保は戦いの半分に過ぎない  

コンピューティング競争は、サイバーリスクと深く絡み合っています。AIモデルの重み、学習データ、インフラの脆弱性などは、今や重要なインテリジェンス資産となっています。一方で、多くの企業が計算タスクを新興国のマネージド・サービスプロバイダーに委託しており、こうした第三者のエコシステムがスパイ活動やサイバー犯罪の標的になっています。量子コンピューティングの登場を見越して、「今データを収集し、後で解読する(harvest-now, decrypt-later)」という攻撃も増加しています。そのため、サイバー・レジリエンスがコンピューティング競争の土台となります。企業が自社の環境やベンダーのネットワークを守れるかどうかが、イノベーションの恩恵を受けられるかどうかを左右します。特に、機密性が高く長期間保持されるデータを扱う企業は、今すぐ暗号鍵の更新を始めなければ、将来的な情報漏えいのリスクにさらされる可能性があります。 

規制上の問題 

各国・地域で下記のような動きがみられるように、AI規制は、現実のものとなりつつあります。 

  • 中国:2025年後半にデータセキュリティ、コンテンツのラベリング、モデルの学習プロセスに関する複数のAI規制を導入。既存のデジタル分野の規制を補完する形に。
  • EU:2024年に施行された「AI法(EU AI Act)」が、2026年8月にはすべてのAIシステムに適用される予定。これには、リスクの高いAIや汎用AIモデルも含まれる。
  • 米国:連邦政府の「AIアクションプラン」がAIイノベーションの促進を重視している一方で、2026年には複数の州法がAI製品の規制を開始する予定。

企業にとって真のプレッシャーは契約面にあります。顧客は、AIシステムにおいて適切なデータ利用、透明性のある学習プロセス、安全な運用についての証拠を求めています。業界団体や標準化機関も、AIに関するガイドラインや基準の整備を進めています。今後2年間で、デュー・デリジェンス、契約、保証のあり方は、急速に進化していくでしょう。 

しかし、投資とイノベーションのスピードに、監督体制が追いついていないのが現状です。AIアプリケーションやプラットフォームに資金が流れ込む中で、企業の評価額は実績以上に膨らんでいます。新しい規制が本格的に適用され、コンプライアンスコストが増加するようになると、市場で勝ち残るのは、投資家や顧客から厳しい質問を受ける前に、成長の中にガバナンス(統治・管理体制)を組み込んだ企業です。 

  • AI、量子テクノロジー、コンピューティング供給を単一の依存関係として扱うこと
  • 輸出規制への影響範囲を把握すること
  • サプライヤーエコシステムの安全を確保すること
  • 物理的・政策的な制約に備えること

電力と水は所与の条件ではありません。コンピューティング基盤の拡充は、経済成長やインフラの安定性に大きな影響を与えます。各国がイノベーション拠点としての地位確立とAIブームの分け前を競うなか、電力と水の供給などの制約に直面しています。すでにデータセンターは、家庭用・産業用・商業用の電力利用者と、限られた電力を奪い合っており、これが電力価格の上昇や電力網の混乱を引き起こしています。企業は、自社のサプライチェーンがこうしたインフラの混乱にどれだけ影響を受けるかを把握し、事業のレジリエンスを確保するための対策を講じる必要があります。 

AIは可能性を広げる一方で、脆弱性をもたらします。意思決定を無批判にAIに依存するリスクがあります。生成AIは急速に進化していますが、依然として多くのタスクでは誤りも多く信頼性に欠ける面があります。さらに、AIが生成した誤ったデータ(いわゆる「幻覚データ」)や、安全性の低いコードの使用によって、業務プロセスやシステムに見過ごされがちな脆弱性が入り込む可能性もあります。 

2026年特に注視すべき5つのトップリスク

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