2026年、企業は新たなルール、時にはルールが存在しない世界に直面することになるでしょう。各国政府は地政学やビジネスにおけるこれまでのルールを否定し、より取引的で状況に応じた取り決めを支持するようになっています。また、民間企業・団体や、非国家主体、テロ組織、組織犯罪者、アクティビスト化する社会なども、政府やビジネスのあり方に独自の考えを持ちつつあります。 

昔は昔、今は今 

国際秩序はルールに依存します。ルールは強者の力を抑制し、弱者の権利を守ります。暗黙のルールであっても、苦闘の末に結ばれた条約に明記されたものであっても、ルールは国際社会で許容される行動を定義します。貿易、輸送、金融、技術などの領域において確立された行動規範があれば、ビジネスリスクは低減します。ルールがあるからこそ、グローバル経済は成り立つのです。しかし、そのような世界は過去のものとなりつつあります。保護主義と産業政策により、各国は「市場の見えざる手」よりも「政府の長い腕」を選ぶようになっています。領土問題や先制攻撃によって、主権よりも国家安全保障を優先しています。サプライチェーンの安全確保やデータ保護法によって、互換性よりも管理を重視しています。握手による取引や裏交渉によって、外交プロセスよりも個人的な関係が重視されるようになっています。 

企業は、ルールが変化する状況、そしてルールが全く存在しないような状況下で、迅速に対応できる力を身につけなければなりません。 

新たなルールと古き因縁  

既存のルールが崩れると、地政学的な可能性は一気に広がります。新しいルールが生まれるか、あるいはルールそのものが失われた世界は、過去の清算や限界の試みを行う好機となるためです。 

この傾向は、国境を越える紛争、暗殺、先制攻撃、サイバー攻撃、ドローン侵入、破壊工作など、実行犯が明確な国際的攻撃行為の増加に如実に表れています。 

2026年、各組織はこうした機会主義的な攻撃や誤算の増加に対応しなければなりません。一方で、エスカレーション優位(紛争の段階的な緊張・攻撃の拡大において、どの段階でも相手より優位に立てる能力のこと)や抑止戦略上の計算によって形成される新たな均衡にも直面することになるでしょう。 


世界貿易においても同様の傾向が見られ、主要経済国はもはや同一のルールで行動していません。国家間の非差別待遇(最恵国待遇とも呼ばれる)をベースとした「多国間ルールに基づく貿易システム」は、国家安全保障上の例外措置、重商主義的補助金、強硬な関税措置によって崩壊しつつあります。特に市場や産業、製品、技術が過度に一極集中している場合、経済的な強制力も作用し、システムの崩壊を加速させています。 

世界貿易は維持されているものの、ルールは二国間、地域、連合関係へと移行しつつあります。すなわち、安全保障上の協力度合い、イデオロギー的な親和性、戦略的な利益などにパートナーごとに異なるルールが適用されるようになっています。経済的な目的や安全保障上の目的での重要サプライチェーンを戦略的に操作する動きはさらに激しくなるでしょう。2026年には、こうした新たなルールを把握するだけでも多大な労力を要することになるでしょう。企業が勝ち抜くためには、多様化と現地化への戦略的に進め、より柔軟な契約を取り入れ、確固たる地政学的な状況をしっかり認識することが重要です。 

ルールメイカーとルールテイカー  

経済・人口動態の変化によって、ルールを作るルールメイカーと、ルールに従うルールテイカーの間に正当性の格差が広がっています。例えばグローバル・サウス諸国の多くは、国連をグローバルルールの主たる仲裁者と見なす一方で、地政学的な現実を反映していないと感じています。2026年、新興国・発展途上国は自らがルールを設定できる場や機関を求め続けるでしょう。 

一方で、民主主義の後退によって、選挙や市民社会がルール違反を監視する力を失いつつあります。制度への信頼が低下することで、ルールや規制、さらにはその制度自体の正当性が疑問視されるようになっています。 その結果、ビジネスにとって予測しづらく、不公平な環境が生まれやすくなり、汚職や縁故主義が助長される可能性があります。場合によっては、ルールを守ることが競争上の不利になることさえあるのです。 


    ビジネスへの示唆

  • 地政学がビジネスチャンスを左右する時代:政府介入の拡大により、商業的な論理(利益追求など)よりも戦略的アジェンダ(安全保障など)が優先されるようになります。これは、コスト、投資、市場へのアクセスに影響を与えます。企業は、生産拠点やサプライチェーンの現地化を通じた国や地域へのコミットメントを示すよう圧力を受けます。グローバル企業であることが、対立や混乱の渦中から逃れる保証にはなりません。現地の要求に応じて事業展開を行い、場合によっては組織構造さえも適応させることができる企業が成功するでしょう。
  • ルール作りは政府だけが行うわけではない:民間や非国家主体も発言権を持つようになるでしょう。規制当局が追いつくのを待たずに、企業は新興技術の開発により可能性を広げていくでしょう。テロ組織は、紛争を誘発したり、戦略的な意思決定を妨害したりするために、攻撃を利用する可能性があります。社会活動の高まりは、一部政府に対して、税制・気候・移民政策といった課題への対応を迫ることになります。企業は政府の動機だけでなく、政治・安全保障上の影響力を持つ非国家主体の動向も理解する必要があります。
  • 理念よりも利害がものを言う時代に:国際関係はより取引的かつ状況依存的になるでしょう。異なる政治体制や価値観が、相互利益に基づく協力を妨げることはありません。臨時の連合や地域協定の重要性が増し、非西洋諸国やグローバル・サウス連合の影響力が拡大するでしょう。企業は、新たな国々や会議、回廊での可視性を確保しつつ、ビジネス機会と倫理・コンプライアンス義務のバランスを取ることが求められます。
  • ボラティリティ(変動)が新たな標準に:2026年には、地理的・外交的境界が頻繁に試され、事故や紛争のリスクが高まるでしょう。迅速な危機対応には準備と状況認識が不可欠です。企業は、影響は大きいものの発生確率が低いシナリオで、戦略のストレステストを行い、2026年に発生する極めて複雑で多面的な危機に対処する準備を整える必要があります

2026年特に注視すべき5つのトップリスク

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