アフリカにおけるリスク・リワード指標2024:調査結果からみる最新リスクと機会
アフリカにおけるリスク・リワード指標2024:調査結果からみる最新リスクと機会
今アフリカは重要な転換期をむかえています。アフリカ大陸の多くの国で政治情勢が変化し、アフリカ域内の連結性を推進する力が強まり、先進テクノロジーの急速な進展により社会が大きく変動しています。この転換期は、多大な機会をもたらす一方で、リスクも高まります。アフリカの展望は概ね明るいものの、絶えず変化しています。アフリカで事業や投資を行う企業は、市場動向を見極め、短期的な変動と長期的な傾向を理解し、自社の戦略に組み込んでいくことが求められます。
【本記事のサマリ】
- コントロール・リスクスは、オックスフォード・エコノミクスと共同で「アフリカにおけるリスク・リワード指標2024」を公開。アフリカ諸国におけるリスク環境を提示するとともに、アフリカ経済における主な投資トレンドを長期的な視点で分析し、企業・組織が今後の事業戦略や投資戦略を練る上での重要テーマを提示。
- 今後のアフリカにおける変革を方向づけ、ビジネス機会とリスクが潜む特に重要なテーマは下記3つ。物理的な安全管理や治安対策だけでなく、こういった動向も注視し戦略に含めて対応していくことが求められる。
- 世代間の分断:アフリカ政治の新時代
- 大陸を再形成する大規模インフラプロジェクト
- 先進テクノロジーによる経済発展の加速
国別のリスク・リワード指標
アフリカの主要国における長期的な投資見通しを提示するため、各国の投資リスクとリワードを、政治的・経済的観点から比較評価し、投資環境の変化を反映しています。2024年は、前回2023年に比べると総合評価が上昇した国が多く、対象の24カ国のうち17カ国のスコアが上昇し投資環境は改善しています。「アフリカ」と言っても国により状況は大きく異なるため、投資対象国の国別リスク評価を行いつつ、他の国々との関係や地政学的な文脈の中でリスク・機会を検討することが重要です。
世代間の分断:アフリカ政治の新時代
昨今、アフリカの若い世代が、自国のガバナンスや開発の遅れ、政治体制に対する不満を爆発させています。これは、各国の選挙結果や政治的な動向からも明らかです。南アフリカでは、2024年5月の総選挙で、与党のアフリカ民族会議(ANC)が30年前のアパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃以来初めて過半数議席を失いました。セネガルでは、2024年3月の大統領選で野党候補が圧倒的な勝利を収め、政治力学が大きく変化していることが示されました。ケニアでは、若者たちが全国規模の抗議行動を行い、大統領が全閣僚を解任するに至りました。
若者の失業率の高さや、経済的な課題に対する各国政府の対応への不満がますます募っていますが、若い世代が多様な情報に簡単にアクセスできるようになったことにより、高まる不満を鎮めるために従来のやり方は通用しなくなっています。こういった新たな局面を迎え、アフリカ各国は様々な分野で国内の付加価値を重視し、デジタル領域やクリエイティブ産業の開発・投資により雇用を増やし、労働者の待遇改善に取り組んでいます。 しかし、厳しさを増す世界経済と地政学的環境の中で、アフリカ各国の政府は、投資を呼び込む必要性と若い世代からの期待の高まりとのバランスをどうとるかという大きな課題に直面しています。企業は、予測しにくい不安定な治安や政策の中で、ビジネスを行うことを強いられています。
今後数年間、アフリカで事業を展開する企業は、下記3つの主要なリスクに直面することが予想されます。
- 各国政府は、税制や雇用創出などの面で成果を上げていることを国民にアピールするため、大企業を税制や規制の対象とする可能性が高い。特に鉱業、石油・ガス、通信、金融など外貨を生み出す主要産業では、ローカルコンテント要求がより厳しくなることが予想される。
- 政治的混乱の影響を受けやすくなり、政治的・社会的問題に一層注意を払う必要がある。例えば西アフリカでは、欧米諸国と密接であった政権がクーデターで相次いで失脚し、ロシアの影響力が増している。
- 生活費の高騰や税負担の増加に伴い、現地従業員の給与や福利厚生、能力開発や研修に対する期待や要求も高まっている。
アフリカの政治動向やビジネス環境が大きく変化している今、企業も政府も、対立や紛争ではなく、若い世代との関係を強化し、彼らの意欲とエネルギーを活かすために向き合う必要があります。 地元住民、特に若い世代との強固で透明性の高い関係を築くために時間やエネルギーを費やせる企業は、昨今の不安定な環境をうまく乗り切ることができるでしょう。
大陸を再形成する大規模インフラプロジェクト
アフリカ大陸のインフラ投資は過去20年間で急増し、エネルギー、港湾、鉄道などのプロジェクトが世界中の投資家から注目を集めています。 国連のデータによると、アフリカのコンテナ港の総処理量は2010年から2022年の間に56%増加。 こういったプロジェクトの多くは、アフリカ地域内ではなく対外輸出を指向しており、アフリカ諸国と世界市場とのつながりを強化し、消費財や原材料の輸出入を促進しています。 一方で、アフリカ域内の主要都市や経済の中心地を結ぶインフラの格差は依然として課題です。アフリカ域内における貿易の活発化を妨げる最大の障壁となっています。アフリカ輸出入銀行(The African Export-Import Bank)によると、アフリカ域内貿易は2023年に過去最高の1,920億USドルに達したものの、これはアフリカの貿易総額の15%ほどです。アフリカ・インフラ・コンソーシアム(ICA)が発表した調査でも、インフラの不備がアフリカ諸国間の取引コストを30〜40%上昇させていることが示されています。
アフリカのインフラ整備の目的が輸出に向いているのは、アフリカ域内の需要が不足していることが大きな理由かもしれません。 天然ガスを例にとると、2010年代半ば以降、世界で新たに発見されたガスの量の40%を、アフリカが占めています。 現在、様々な液化天然ガス(LNG)プロジェクトが進行中であり、年間生産能力を約6,500万トン追加で引き上げる可能性があります。 しかし、地元のオフテイカー(都市ガス会社など)が十分な需要を保証できなかったり、大規模プロジェクトを計画するのに十分な信用力がなかったりするため、生産した天然ガスのうちアフリカ大陸に残るのはごく一部です。また、経済的な圧力や地政学的緊張の高まりなども、アフリカ政府にとってプロジェクトを選択する上での課題となっています。
アフリカ大陸のインフラ整備の多くは、当分の間、引き続きアフリカ域外への輸出向けであり続けるでしょう。一方で、アフリカ域内の主要都市を結ぶ輸送やエネルギー関連プロジェクトに融資する動きも増えてきています。
インフラ投資において、地政学的なダイナミクスも重要な役割を果たしています。これまで中国は「一帯一路」構想の下に、アフリカのインフラプロジェクトに膨大な投資を行ってきましたが、他のグローバルパワーによるアフリカへの影響力をめぐる競争はさらに激化しています。米国、湾岸諸国などは、天然資源へのアクセスをめぐる競争や世界経済における戦略的位置付けをめぐって、アフリカにおける重要インフラプロジェクトへの投資を強化しています。
先進テクノロジーによる経済発展の加速
AIなどの分野における技術革新は、世界規模でのイノベーション、競争、協力の新たな道を開いています。他の地域と比べ、アフリカ諸国におけるAI戦略や規制の整備はやや遅れています。現在、AI戦略を打ち出している国は、ベナン、エジプト、ガーナなどわずか7カ国に過ぎず、規制法令を整備している国はさらに少ない状況です。
国際通貨基金(IMF)のAI準備指数によると、アフリカ諸国は総じてAIを有効活用する準備が整っていません。しかし、アフリカ各国の政府はこれまで、まず企業が新しいテクノロジーを導入することを許可し、そのテクノロジーがどう活用されるかを明確に理解してから、規制導入を検討してきました。 このアプローチの代表例がモバイル決済技術の規制ですが、AI規制に関しても同様の流れが見込まれます。
一方で、アフリカのAIスタートアップ業界も盛り上がっています。ドローンを使った医療物資の輸送から、AI診断ツールによる医療提供の高度化、農業分野における天候や商品価格のモニタリング、ビジネスリスクの特定まで多岐にわたります。これらのサービスの多くはまだ初期段階ですが、今後数年でプロジェクトが統合されてスケールするにつれて、指数関数的な成長が期待できるかもしれません。
しかし、アフリカがテクノロジー主導の経済モデルを構築するには、まだ多くの課題が残っています。
- 慢性的なエネルギー不足により、サハラ以南のアフリカを代表するデジタル大国である南アフリカ、ナイジェリア、ケニアでさえ、デジタル化の推進に必要な電力を供給する準備ができていない。
- 十分な教育を受けたデジタル人材が不足している。
- 多くの行政サービスは紙ベースのままで、AIを効果的に活用するために必要なデータ基盤が不足している。
- 生成AIは、音声や映像の偽造、偽情報や犯罪行為に利用される可能性があり、規制当局はこれに対処できていない。
- ランサムウェアなどの洗練された脅威は、今後もアフリカ全域で拡大し続ける可能性が高く、デジタル化の進展により攻撃の破壊力と影響力がさらに増すと予測できる。
今後、アフリカ各国の政府はAI関連のパイロットプロジェクト、特に将来の発展に大きな影響を与えるようなプロジェクトへの支援を引き続き強化していくでしょう。しかし、規制の枠組みが分断されているため、複数の国が関わるプロジェクトは複雑さを増します。さらに、電力、光ファイバー網、データセンターなど、AIの開発や普及に必要なインフラ整備を強化する必要があります。これは企業にとって好機となります。 アフリカ政府の予算が厳しいことを考えれば、この領域の民間投資は特に歓迎されるでしょう。
コントロール・リスクスは、アフリカで事業や投資を行う日本企業を長年支援してきました。アフリカビジネスに関するご相談などございましたら、ぜひ下記フォームよりお問い合わせ下さい。
※フルレポート「Africa Risk-Reward Index 2024」(英語版)はこちら