第20回中国共産党党大会を読み解く:習近平氏の権力強化と台湾への強硬化リスク

第20回中国共産党党大会を読み解く:習近平氏の権力強化と台湾への強硬化リスク 


Author:  菊池朋之(Tomoyuki Kikuchi)

【本記事のサマリ】

  • 国家としての意思決定の不確実性は上昇、政策の予測可能性が低下。
  • 中国製の半導体等の先端テクノロジーの内製化一層の加速を予想。対外取引規制の強化のシナリオを想定する必要性。
  • 台湾に対する武力行使の可能性の明言。日本企業の対応策は一層急務に。


5年に1度開催される中国共産党党大会が2022年10月22日に閉会。習近平総書記の毛沢東以来の3期目が確定し、最高意思決定機関である中央政治局常務委員会の委員が選出されました。来年2023年に行われる中国共産党全国人民代表大会(全人代)では、常務委員の正式な役職が決定される予定です。会期中には、胡錦濤前総書記がメディアの前で退席させられる一幕もあり、常務委員のメンバーも習近平氏に近い人物で固められたことで、公表された党規約の改定における習近平氏の「核心」化と指導的地位の確認とともに、習近平氏による独裁的体制が強化されたといえます。

中国国内における意思決定の不確実性

習近平氏の独裁的体制が強化されたことで、中国国内における意思決定の不確実性は上昇しました。中国共産党内における権力構造として、一定の党派性を有する派閥間のパワーバランスにより、意思決定における専横が抑制されていました。しかし、今回、政治局員を含め中国共産党中央がすべて習近平氏に近いメンバーで固められたことにより、政策的な調整機能が低下し、習近平氏のトップダウンによる政策決定の傾向がより強化されるでしょう。従って、中国における重要な意思決定が習近平氏個人の思想・思考に依存することとなり、政策的な予測可能性もより一層低下することが想定されます。

中国国内では、法律の恣意的運用や事業活動に影響を及ぼすデータ、個人情報、テクノロジー、環境などに関する各種規制の強化は、重要なリスクでありつづけていました。習近平氏の権力強化により、中国における規制関連の不確実性が上昇すると想定され、日系企業に対しても影響が生じる可能性があります。特に先端テクノロジー分野における「製造強国」の加速に言及しており、中国国内の半導体等の先端テクノロジーの内製化が更に加速するとみられます。よって、中国で開発・生産した品目に対する対外取引への規制が強化されることを想定していかなければなりません。

「台湾の独立に断固反対し阻止する」

今回の中国共産党党大会における日本への影響が想定される変化として、党規約に盛り込まれた「台湾の独立に断固反対し阻止する」という文言が挙げられます。前回、第19回の中国共産党党大会において採択された党規約においては、台湾について「香港特別行政区、マカオ特別行政区の同胞、台湾の同胞、華僑を含む全国の人々の団結を継続的に強化する。」と言及されていたのみであったことを踏まえると、習近平氏の3期目においては、台湾政策の強化が進むことが明言されたといえます。さらに、習近平氏は党大会における政治報告において、台湾に対する武力の放棄は約束しないと述べ、台湾に対する武力行使という選択肢を取り得ることをより明確にしました。

以下、中国共産党規約(第20回党大会修正)より抜粋

(原文)
不断加强全国人民包括香港特别行政区同胞、澳门特别行政区同胞、台湾同胞和海外侨胞的团结。全面准确、坚定不移贯彻“一个国家、两种制度”的方针,促进香港、澳门长期繁荣稳定,坚决反对和遏制“台独”,完成祖国统一大业。

(仮訳)
香港特別行政区、マカオ特別行政区、台湾、世界の華僑の同胞を含む中国国民の結束をより一層強化する。 「一国二制度」の原則を全面かつ揺ぎ無く実行し、香港とマカオの長期的な繁栄と安定を促進し、「台湾独立」を断固として反対し、阻止し、祖国の統一を完成させる。

 
そして、軍事面での意思決定機関である中央軍事委員会の副主席に、人民解放軍の近代化を進め、習近平氏とも近い関係にあるとされる張又侠氏が留任することが決まりました。また、台湾および日本を任務区域に含む東部戦区の司令官であった何衛東氏が新たに選出されました。こうした中央軍事委員会の人事は、習近平氏による安全保障の重視、軍の近代化・強化、そして台湾問題への強硬姿勢を裏付けるものです。中国および台湾への事業展開やサプライチェーンを有する多くの企業にとって、台湾をめぐる中台、そして日米を含む軍事的緊張や政治的関係悪化により生じるリスクを特定し、対応策を検討することがより一層急務になったといえるでしょう。


コントロール・リスクスでは、中台をはじめとする地政学的リスクについて、お客様の事業への影響に関するアセスメントや、危機管理・リスクマネジメントに関する各種アドバイスなど包括的な支援を行っています。ご相談などございましたら、以下問い合わせフォームよりお問い合わせください。

※本稿に関連し、第20回中国共産党党大会に関して、経済・政治面を含むより詳しい分析については、コントロール・リスクスの東アジア分析部門を統括するAndrew Gilholmの論考(英語)を併せてご参照ください。

お問い合わせ先

DOTCOM - Japanese - Enquiry via Our Thinking articles
姓**
 
 
 
名**
 
 
 
会社名**
 
 
 
Eメール*
 
 
 
部署名**
 
 
 
役職*
 
 
 
*
 
 
 
電話番号
 
 
 
問い合わせ