ラテンアメリカ諸国における反汚職の取組み度合いを比較・分析
ラテンアメリカ諸国における反汚職の取組み度合いを比較・分析
汚職はラテンアメリカ全体で依然として大きな課題です。ラテンアメリカにおける汚職防止関連の専門家を対象とした調査では、回答者の70%近くが「自国の多くの人にとって汚職は最大の懸念事項」であると回答しています。しかし、ラテンアメリカ諸国では、暴力犯罪、パンデミック後の経済低迷、民主主義の後退への懸念など、汚職以外の課題の方が優先度が高くなっているのが現状です。
【本記事のサマリ】
- コントロール・リスクスは、米州協会および米州評議会と共同で、ラテンアメリカ諸国においてどのぐらい効果的に汚職を防止し、摘発・処罰する能力があるかを国ごとに分析・評価し、ランク付けしたレポート「2023年版CCCインデックス」を発表。
- 調査対象15か国のうち10か国が、前年に比べてスコア減。スコアが高い国(ウルグアイやコスタリカ)と低い国(グアテマラやベネズエラ)の両方でスコアが減少しており、ラテンアメリカ全体で汚職との戦いが停滞・後退している状況が明らかに。
- ラテンアメリカ諸国に事業展開・投資を行う際は、国ごとのビジネスリスクや現地のパートナー企業に関する綿密な調査・分析がこれまで以上に重要になっている。
CCCインデックスは、「汚職に対してどのくらい効果的に闘うことができるか」という観点でラテンアメリカ諸国を評価・ランク付けしています。スコアが高い国は、汚職を行うと摘発・処罰される可能性が高く、スコアが低い国では、起訴されない可能性が高いことを示しています。各国の司法能力、政治制度、市民社会・メディアに関する下記14の項目に注目し、分析・評価しています。
<司法能力>
- 司法の独立性と効率性
- 汚職防止機関の独立性と効率性
- 公開情報へのアクセスと政府の透明性
- 検事と捜査官の独立性とリソース
- ホワイトカラー犯罪と闘うために利用できる専門知識とリソース
- 判事の寛大さ/司法取引手段の質
- 法執行に関する国際協力のレベル
<政治制度>
- 選挙資金法の質と法的強制力
- 立法・裁定プロセス
- 民主主義の質
<市民社会・メディア>
- 汚職に対する社会運動の活発性
- 教育の改善
- 調査報道の質
- オンライン・コミュニケーション/SNS
このインデックスは、広範なデータ、コントロール・リスクスの専門家による分析、主要な汚職防止関連の専門家を対象に実施した独自調査に基づいています。対象国は15か国(アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、ドミニカ共和国、エクアドル、グアテマラ、メキシコ、パナマ、パラグアイ、ペルー、ウルグアイ、ベネゼエラ)で、対象国のGDPを合計するとラテンアメリカ全体におけるGDPの96%を占めています。2023年の調査において、最も高いスコアを獲得した国はウルグアイ(6.99)。一方、最もスコアが低い国はベネズエラ(1.46)でした。
主な調査結果
- 15か国のうち2か国は、2022年に比べてスコアが大幅に減少(グアテマラ/0.52減、ウルグアイ/0.43減)するなど、15か国のうち10か国でスコアが減少しており、ラテンアメリカ全体で汚職防止の取組みが停滞・後退傾向にある。
- パナマでは2022年に比べて大幅に改善が見られるなど、15か国のうち5か国でスコアが改善(パナマ/0.43増、ドミニカ共和国/0.23増、パラグアイ/0.16増、ブラジル/0.07増、アルゼンチン/0.03増)。パナマ、ドミニカ共和国、パラグアイは、3年連続でスコア増。
- ウルグアイは最もスコアの高い国だが、2021年から連続して減少傾向。ウルグアイに次ぐコスタリカ(2位)とチリ(3位)は2022年に比べスコアは減少したものの上位を維持。
- グアテマラとベネゼエラでは、大幅にスコアが減少。また、グアテマラとメキシコの2か国は、2019年の調査開始から毎年スコアが減少。
ブラジルとメキシコ
ラテンアメリカにおいて最もGDPが高い国はブラジル、次いでメキシコです。この2か国のGDPを合計するとラテンアメリカ全体GDPの約6割を占めますが、汚職防止の観点でいうと、15か国中ブラジルが8位、メキシコが12位です。
- ブラジルの総合スコアは、3年ぶりに改善。政治制度のカテゴリーは、数年にわたる緊張を経て今回はスコアが改善。司法能力カテゴリーでは、腐敗防止機関と司法の独立性と効率性を評価する変数で改善が見られた。
- メキシコの総合スコアは4年連続減少。メキシコはジャーナリストに対する暴力の発生率が世界で最も高い(ウクライナを除く)。アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領は、ジャーナリストや市民社会に対して強い批判を続けており、ジャーナリストや活動家、人権担当次官に対するスパイウェア「ペガサス」の使用疑惑が浮上(政府は不正行為を否定)。メキシコでは2024年6月に大統領、立法府、州知事の選挙が実施される予定だが、汚職は依然として有権者の最大の関心事として選挙戦でも取り上げられると見られる。
ラテンアメリカ諸国では全体的に反汚職の取組みが停滞しており、新規参入や投資の際には緻密な情報収集、風評リスクの管理、適切な規制対応が重要です。コントロール・リスクスではラテンアメリカ各国に精通した現地の専門家と連携し、日本企業が事業展開・投資を行う際の協業パートナーや投資先に関する調査・分析、ステークホルダーマネジメントなどの支援を提供しています。より詳細情報や具体的なご相談などございましたら下記フォームよりお問い合わせ下さい。
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