インドネシア大統領選挙:プラボウォ政権と「政治王朝」の成立

インドネシア大統領選挙:プラボウォ政権と「政治王朝」の成立 


Author: 菊池朋之

 

【本記事のサマリ】

  • 2024年2月14日のインドネシア大統領選挙において、プラボウォ・スビアント国防大臣の勝利が確実となり勝利宣言を行った。
  • プラボウォ氏は、ジョコ・ウィドド政権による経済優先の政策の引継ぎを基本方針としており、日本企業を含む外資系企業にとっては事業機会の増加が見込まれる。
  • 一方で、インドネシアでは環境保護や経済格差、少数民族問題、汚職など、外国資本が活動する上で対応すべき課題が多い。
  • ジョコ大統領の長男が副大統領となることにより、ジョコ大統領による政治的影響力の保持、政策的決定プロセスの透明性低下が懸念される。

プラボウォ氏の勝利宣言

インドネシアでは、2024年2月14日大統領選挙が実施されました。国軍出身で、現政権のジョコ・ウィドド政権において国防大臣を務めるプラボウォ・スビアント氏が、過半数の票を獲得し、決選投票なしでの大統領選出が確実に。プラボウォ氏は2014年と2019年の選挙でジョコ・ウィドド大統領に僅差で敗北しており、今回の選挙ではジョコ大統領の息子を副大統領候補にするなど、2期満了で退任するジョコ大統領の高い支持率を取り込みながら盤石な選挙戦を進め念願の勝利につながりました。本稿では、選挙結果を受けて、インドネシアに投資・事業展開を行う企業にとっての機会とリスクを解説します。

経済優先の政策方針

プラボウォ氏は、選挙におけるマニュフェストとして「2045年までにインドネシアの先進国入りを目指す」という経済優先の政策方針を掲げていました。インドネシアは、コロナ禍を除き過去20年にわたり5%前後の経済成長を続けています。また、生産年齢人口の割合は約7割を占め、高い特殊合計出生率(2022年データ:2.2)などの影響と、プラボウォ政権の経済政策が連動することで、今後も安定した経済成長と市場機会が得られることが予測されます。プラボウォ政権では、首都移転や経済成長優先の政策にけん引される市場機会の拡大が見込まれ、プラボウォ氏自身もエネルギーセクターや首都移転先の東カリマンタン州の鉱物資源などに直接・間接の利害を有しており、積極的な開発が見込まれます。

リスクと課題

ESG上の課題:ジョコ大統領の経済成長優先の姿勢は環境軽視や格差拡大を伴っているといった批判を受けており、ジョコウィ大統領の政策踏襲を公言するプラボウォ政権においても、引き続き重要な課題となるでしょう。日本企業を含む外資の活動においては、ESGの観点から人権や地域住民への配慮、環境保護の取り組み、現地従業員の労働環境の改善を明確にし、アクティビストを含む株主への説明責任と事業プロセスの透明性の担保がこれまで以上に重要になります。

プラボウォ氏はスハルト政権(プラボウォ氏の配偶者はスハルトの次女)において、東ティモール侵攻・占領に関与していました。また、イスラム教保守派を重要な支持基盤としているため、少数民族との対立が懸念されます。インドネシアでは少数民族問題をめぐり大規模な抗議活動が度々発生しており、プラボウォ氏が少数民族の軽視・弾圧を強化する場合、特にパプア地域において治安上のリスクの蓋然性が上昇する可能性もあります。

汚職問題:トランスペアレンシー・インターナショナル(Transparency International)が発表している2023年腐敗度指数では、インドネシアは180か国中115位と下位グループに位置し、引き続き汚職対策が課題となっています。特に、プラボウォ氏がジョコ大統領の長男であるギブラン氏を副大統領候補に据えたことで、有力者一族への政治権力の集中と縁故主義による政権内の自浄作用の低下が懸念されています。また、ギブラン氏の副大統領選出馬に際して、インドネシア憲法裁判所が大統領選に出馬できる年齢制限を地方首長経験者に限って適用外にするという判決を下したことからも、司法の透明性および政治の司法への介入がこれまで以上に懸念されるでしょう。日本企業がインドネシアへの投資を検討する上でも、こういった汚職問題や縁故主義の蔓延、不透明な政治・司法プロセスは重要な課題であり、現地の投資先や協業先の政治的エクスポージャーやガバナンスのチェックを積極的に実施することが求められます。対外的には、プラボウォ氏は国防大臣就任時から親中傾向が強く、経済開発プロジェクトにおける中国政府・中国企業の影響力が増加する可能性があります。インドネシア国軍の装備は東西ミックスで調達されており、プラボウォ政権が親中傾向を高めた場合、軍事的にも中国との関係強化を進める可能性は否定できません。今後、各国から対インドネシア直接投資が増加すると見られる中で、太平洋地域における政治的緊張も踏まえた投資や事業運営が求められるでしょう。

コントロール・リスクスは、世界中に200人以上の地政学・経済学の専門家を有し、包括的な政治・マクロ経済分析・予測を用いたコンサルティングサービスを提供しています。地政学的リスクや特定の国・地域の政治経済リスクに関するご相談がございましたら、是非お問い合わせください。

 

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