高まる自然災害のリスク:企業はいかに備えるか
高まる自然災害のリスク:企業はいかに備えるか
企業に自然災害への備えを迫る事象が相次いでいます。2024年8月8日、日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、気象庁は南海トラフ地震など今後の巨大地震への注意を呼びかける「南海トラフ地震臨時情報」(巨大地震注意)を2019年の運用開始以来初めて発表。また、今年の元日に発生した能登半島地震も、いつ起こるか分からない自然災害のリスクを改めて認識させるものでした。近年では、地震などのリスクに加え、極端な気象による豪雨や洪水、高潮などの気象災害の激甚化リスクも高まっており、ビジネスへの影響も懸念されています。本稿では、高まる自然災害のリスクを概説するとともに、企業の取り組みをより実効的なものにするために必要な観点について考えます。
自然災害とビジネスへのリスク
近年、地震などの自然災害や気候変動の影響などとみられる極端な気象災害が世界的に発生しており、企業活動にも影響を与えています。2020年にフィリピンのバダンガス州で発生した火山噴火では、首都マニラの国際空港が一時閉鎖に追い込まれたほか、日系企業も入居する州内や周辺の工業団地への従業員の通勤が困難となり、操業再開に遅れが生じました。2021年にマレーシアで発生した洪水では、大きな被害を受けたセランゴール州内の日系企業が集まる地域でも浸水や停電が起き、主力商品の生産中止を余儀なくされたケースも発生。今年に入っても、豪雨やサイクロンにより、ブラジルやケニア、インド、韓国など世界各地で大きな被害が生じています。
2020年以降で大きな被害を出した主な自然災害
「災害大国」といわれる日本でも、大規模な自然災害による事業への影響が懸念されています。「ゲリラ豪雨」などが頻発していますが、国内の1日の降水量が200ミリ以上となる日数や短時間強雨の発生頻度が、今世紀末には前世紀末の2倍以上に増加するとの試算もあり 、交通や物流への影響をはじめ、事業へのリスクが無視できないものとなっています。また、気象災害だけでなく、地震、津波などの自然災害によるリスクも引き続き大きいままです。近年注目が高まっている半導体を巡っても、地震の影響で過去にも供給に影響が生じており、南海トラフ地震が発生した場合、半導体の生産拠点として注目を集める熊本県では最大震度6弱の揺れが想定されているほか、大きな被害が予想される東海地方でも、半導体関連産業が集積する三重県などで最大震度7の揺れが想定されています 。日本企業の間では経済安全保障の観点などからサプライチェーンの見直しが進んでいますが、自然災害のリスクも踏まえ、バランスをとった拠点配置や災害発生時の対応の整備が必要です。
企業の自然災害への対策を評価する市場の視線も厳しくなってきています。米カリフォルニア州の大手電力会社は、同州で起きた大規模な山火事の損害賠償や罰金などが重荷となり、2019年に連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)を申請。同社は山火事との関連が疑われた送電線を100年近く運用し、5年間保守工事を繰り返し延期していたと報じられるなど、温暖化による乾燥で大規模な山火事のリスクが指摘されるなか、十分な備えができていたか疑問視されました。同時に、伝統的に二酸化炭素削減等の環境分野への取り組みに焦点を当てていたESG評価に、災害リスクの管理状況などを加える議論にもつながりました。今年に入っても、米国証券取引委員会(SEC)が、企業に気候関連情報の開示を義務付ける規則を採択し、異常気象が収益に与える影響や、ハリケーン、海面上昇、洪水等から設備や資産を守るために行っている投資情報の開示を求めるなど、自然災害への取り組みを求める声が高まっています。
求められる実効的な対策
日本では、大企業を中心に災害対応マニュアルや事業継続計画(BCP)の整備は進んでいるものの、長年見直しが行われていなかったり、マニュアルに基づく訓練が実施されていないなど、取り組みが形骸化しているケースも少なくありません。背景には、自然災害の発生頻度や企業へのインパクトの評価が難しいことに加え、「自分は被害にあわないだろう」「前回の災害で被害にあわなかったから今回も大丈夫だろう」といった認知バイアスによって、リスクを過小評価したり、対応が後回しになっている可能性もあります。2004年のインドネシア・スマトラ島沖地震において、地震後の津波への警戒感の低さから適切な避難指示が出されなかったケースや、米国で2005年にハリケーン「カトリーナ」が発生した際に、堤防決壊が事前に想定されていたにもかかわらず、実際には決壊しないだろうとの希望的観測に基づく対応がなされたケースからも、バイアスによる影響が被害拡大の一因となったことがうかがえます。
認知バイアスの例
災害への対策を実効的なものとするためにも、定期的なマニュアルの見直しや訓練を制度化するなどの工夫が求められます。最新の災害事例に基づくマニュアルの見直しや訓練のほか、極端なケースを想定したストレステストの実施などは、対応策の不備や抜け漏れを最小化することにつながります。また、「人間はバイアスにとらわれやすい」との前提に立ち、第三者によるレビューを受けることも有効です。自然災害への対策を改善していくなかで、他の有事対応につながる学びや示唆を得られることもあり、気象災害を含む自然災害リスクが高まるなか、継続的な対応の改善を行うことが重要です。
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