重要鉱物をめぐる地政学的リスクとビジネスへの影響
重要鉱物をめぐる地政学的リスクとビジネスへの影響
重要鉱物(クリティカル・ミネラル)は、デジタル化やエネルギー・トランジションにおいて不可欠な役割を果たしており、世界各国がその確保や戦略的活用をめぐり新たな政策を進めています。現在、世界中で議論が活発化しており、対応の重要性が高まっています。2024年12月初旬に、中国は半導体の材料となるガリウムなどの重要鉱物に対する全面的な輸出禁止措置を発表しました。その対象は米国向け輸出とされていますが、実際のターゲットは、中国の半導体開発に対する米国の規制に追随する可能性がある国(日本を含む)です。このような状況下でトランプ新政権がスタートすることを考えると、主要産業とサプライチェーンにおける地政学的リスクと規制リスクは当面高いままでしょう。本記事では、重要鉱物をめぐる動向やリスクについて掘り下げて解説します。
<本記事のサマリ>
- 重要鉱物の地政学的な影響と、それに伴うサプライチェーンの規制に関して、特に米国のトランプ新政権の動向と 米中の政策指針による影響について、世界中から関心が高まっている。
- 重要鉱物に関連した地政学的変動や各国の規制の変化に対して、適切な情報収集に基づく意思決定が重要。企業は地政学的リスクや規制リスクだけでなく、オペレーションリスク、ESGリスクに至るまで、重要鉱物に関連するリスクを理解し、適切に管理することが求められる。
- コントロール・リスクスでは、グローバルにおける重要鉱物を取り巻く状況に関する最新情報をまとめたレポート(日本語/有料)を毎月配信するサービスの提供を開始。重要鉱物および関連するサプライチェーンに影響を及ぼす地政学的要因や、米中関係をはじめ関係主要国の政治情勢や政策動向が市場動向に及ぼす影響などを分析し月次レポートとして提供。
高まる重要鉱物の重要性
重要鉱物(クリティカル・ミネラル)は、AI、クラウドコンピューティング、エネルギー・トランジションなど、私たちのビジネスや生活を支える多くの技術に不可欠です。代表的なものは、リチウム、ニッケル、銅、レアアース、アルミニウムなど。これらの重要鉱物は、スマートフォンや家庭用電化製品など日常的に使用されるデバイスに必須の資源です。エネルギー供給においても重要な役割を果たしており、多くの国の国家戦略においても重要視されています。米国政府は「重要鉱物」について、エネルギー技術に不可欠であり、サプライチェーンが脆弱で破壊されやすいため、経済や国家安全保障を混乱させるリスクが高いものとして定義しています。
地政学的概況:各国の動向
経済のデカップリングが加速し、ITや半導体などの技術産業が国家戦略上重要な役割を果たすようになり、気候変動リスクが深刻化しています。その結果、重要鉱物の確保に向けた圧力がさらに増しています。そして、米国の政策が中国の優先分野を脅かしつつあります。このように、重要鉱物をめぐる地政学的な状況はとても複雑で、多くの問題を内包しています。
2024年12月、中国政府は半導体の材料となるガリウムなどの重要鉱物について米国向け輸出を禁止すると発表しました。このような傾向はジンバブエ、インドネシア、フィリピン、チリなど他の資源輸出国でも、保護主義や資源ナショナリズムの一環として見られています。多くの先進諸国は、複数の重要鉱物の調達を中国に依存しており、重要鉱物の領域では、中国が世界の主導的な役割を果たしています。一方で、インドネシア、アルゼンチン、オーストラリア、ベトナム、米国などでの鉱床発見が、世界の供給状況を変えつつあります。こういった供給の多様化・分散化は、特定の国への依存を減らし、サプライチェーンの安全性・強靭性を高めるために重要です。
米国は、重要鉱物安全保障法(the Critical Minerals Security Act)などの法的措置によって重要鉱物のグローバル市場における中国の支配に対抗しようとしています。これらの取組みは、世界の供給状況を評価し、海外での重要鉱物事業の売却を求める米国企業を支援するプロセスを確立し、クリーンな採掘・加工技術を開発することに焦点を置いています。
ビジネスへの影響
重要鉱物の需要増加は、事業活動やグローバルな地政学的環境に大きな影響を与えています。米国のインフレ削減法(IRA)やCHIPS法、そして欧州や中国における同様の政策は、他国へのサプライチェーン上の依存を減らし、クリーンエネルギーのような戦略的な領域での競争優位性を維持することを目的としています。重要鉱物の埋蔵量が、少数の国に集中していることは、経済安全保障上のリスクを高めます。企業は、自社のサプライチェーン戦略において地政学的リスクを考慮し、重要鉱物を取り巻く新たな環境における機会を探る必要があります。
また、米国財務省と内国歳入庁が発表した新しいガイドラインでは、インフレ削減法(IRA)が導入したクリーン車両税額控除の対象となる重要鉱物とバッテリー部品の要件を明示しています。こういったガイドラインは、米国国内でのバッテリーや重要鉱物の生産に対する投資を促進するために重要な役割を果たします。
地政学的環境や各国の規制が変化する中で、企業は常に最新の情報を把握し、対応していく必要があります。そして、重要鉱物に関連するあらゆるリスクを理解し管理することが重要です。これは、地政学的リスクや規制リスクのみならず、オペレーションリスクやESGリスクも含まれます。長期的な動向としては、深海採掘やバッテリー技術の進歩が、様々な業界に大きな影響を与え続けるでしょう。重要鉱物に関連する多くの産業は、地政学的な変動、規制の変更、技術進歩などの影響を受けて、現在、重要な岐路に立っています。企業には、これらの動向を深く理解し、積極的にリスクを管理していくことが求められます。
重要鉱物に関する月次配信レポートについて
こういった背景から、コントロール・リスクスでは、グローバルにおける重要鉱物を取り巻く状況に関する最新情報をまとめたレポート(日本語/有料)を毎月配信するサービスを立ち上げました。重要鉱物および関連するサプライチェーンに影響を及ぼす地政学的な要因にフォーカスし、過去一か月に生じた動向の評価・分析を毎月提供します。最新のレポート(2024年11月版)では、下記のトピックを取り上げています。
- 米国大統領選が及ぼす影響
- 中国、ラテンアメリカ、オーストラリア、インドネシアに関連する動向
- リチウム、ニッケル、銅、レアアース、アルミニウムなどの特定鉱物の評価
- EV(電気自動車)やバッテリー領域およびそのサプライチェーンへの影響
本レポートは、一般に報道されている情報だけでなく、今後の動向についての洞察を提示し、幅広い業界や企業にとって有益な情報を提供します。また、対象とする資源やトピックはお客様のご関心に合わせてカスタマイズも可能です。詳細情報やレポートのサンプル送付をご希望でしたら、下記フォームよりお問い合わせください。