「World Risk Report 2024」(世界リスク報告書/Bündnis Entwicklung Hilft (BEH)とIFHVの共同発行)によると、インドは自然災害リスクが世界で3番目に高い国とされています。これは、インドが洪水、サイクロン、地震などの自然災害に対して非常に脆弱であることを示しています。インド政府の発表によれば、2024年度から2025年度にかけてGDP成長率が6.4%に達すると予測されており、高い経済成長が見込まれています。しかし、国土の約60%が中〜高程度の地震リスクに直面しており、7,500kmに及ぶ海岸線の80%がサイクロンや津波の被害に遭う可能性があります。

インドでは、突発的な気象や気候変動に関連する災害が起こる可能性が高まっており、インフラや事業運営に損害を与える可能性があります。広大な国土、複雑な気候条件、深刻な汚染問題、そして巨大都市における人口密集が、これらの災害の影響を拡大させる要因となっています。こうした度重なる災害は、都市部や地方のインフラがいかに脆弱であるかを浮き彫りにしています。そのため、インドで事業を展開する企業は、地域特性に応じた事業継続計画(BCP)を策定することが重要です。

近年の災害による多大な影響

2024年には、インド全土で自然災害により2,900人以上の命が失われました。インドの連邦内務大臣が2025年1月にインド議会で発表したデータによると、洪水や地滑りを含む災害により、36万3千戸以上の家屋、142万4千ヘクタールの農地が被害を受けました。

近年、予測不能なモンスーン、汚染、熱波などの事象が周期的に発生しており、企業にとって新たな重要課題となっています。これらの自然災害は、発生頻度と強度が増しており、同時発生することもあるため、企業は、これらのリスクを組み込んだ事業計画を立てる必要があります。

地震


サイクロン・ 洪水・土砂崩れ


干ばつ・ 水不足・熱波


強靭な事業継続計画(BCP)の重要性

適切に策定されたBCPは、自然災害で混乱が起こった際にも、従業員の安全確保、企業の重要業務の維持、迅速な復旧を可能にします。効果的なBCPを備えることで、復旧の優先順位、連絡体制、代替リソースなどが明確化され、経済的な損失やレピュテーションリスクを低減できます。インドの変動的なリスク環境においては、強靭なBCPなしでは、長期的な業務停止、回復不能な損失、ステークホルダーからの信頼低下につながる可能性があります。しかし、これほど重要であるにもかかわらず、多くの企業が依然として準備不足です。

Think Tealが発行した「2024年インドBCDR状況レポート(2024 State of BCDR, India report)」によると、大手インド企業220社以上のCIOやIT部門の意思決定者を対象とした調査で、約40%の企業が詳細なBCPおよび災害復旧(BCDR)戦略を持っていません。また、回答者の約半数はBCDR戦略の見直しを3年に一度しか行っておらず、約40%がBCDR管理の専門知識が不足していると報告しています。適切なBCPや混乱時の管理プロセスがないと、事前の備えよりも、その場しのぎの対応が優先される文化が生まれてしまう可能性があります。

「災害別」から「リソース別」への転換

従来の災害対策は、特定の脅威(地震など)に焦点を当てた人的・物理的な安全対策を優先してきました。しかし、災害の影響は最初の発生時だけでなく、そこから次々と連鎖反応を引き起こすため、特定の災害だけに対応する計画では不十分です。業界・企業により状況・要件・地域特有の課題などは異なるため、BCPには自社ならではの個別アプローチが求められます。COVID-19パンデミック時には、世界中で規制が敷かれるなか、他の混乱要因も継続的に発生する「ポリクライシス」という状況に陥りました。このような状況下では、単純なBCPは効果がない、あるいは全く意味をなしません。

そこで「災害別」から「リソース別」への転換が重要です。より汎用性の高い「リソース別」アプローチでは、まず、人的資源、施設、情報システム、サプライチェーン、外部パートナーといった重要なリソースを特定し、それらが被害を受けた際の影響を評価することに焦点を置きます。各リソースを保護・復旧するための戦略を検討することで、企業は予期される事象だけでなく、複合的な二次災害を含む、予期せぬ事態にもより効果的に対応できるようになります。

現地に最適化したBCPの重要性

インドで事業を展開する企業にとって、グローバルのBCPをインド向けにカスタマイズすることは非常に重要です。

<BCPの現地化に向けた6つのポイント>

1. リスクベースのシナリオプランニング:地域性と周期性

インドの地域的な多様性と周期的に発生する災害リスクを考慮し、「地域固有のリスク」と「周期的なリスク」の両方にアプローチする必要があります。

(例)

  • 沿岸地域:サイクロン時の避難プロトコルや高潮に耐えるインフラ整備
  • 地震帯:構造安全監査、耐震改修、脆弱性評価に加え、早期警報システムへの投資
  • 都市部(ベンガルール、ムンバイ、デリーNCRなど):水不足、モンスーンによる洪水、汚染関連の規制といった周期的なリスク

また、業界により異なる脆弱性を抱えています。たとえば、小規模なEコマースの配送拠点は、多階建ての小売チェーンとはまったく異なる事業継続のニーズを持ちます。これらの多様なリスクに対応するため、企業は地理的な状況とビジネスモデルの両方に合わせた、簡潔で実用的な手順書に基づいた、事業継続シナリオを策定する必要があります。

2. 量より簡潔さ

緊急時や危機発生時において、社員が自分自身の役割と責任を明確に理解できるよう、簡潔で行動志向の計画を策定することが重要です。その上で、定期的な訓練、シミュレーション、実地テストなどを通じてより実効性が高める必要があります。

3. インフラに関する緊急時対応

サイクロン、洪水、地震、地滑りなどにより、大規模な停電や通信障害が突然発生する可能性があります。このような場合でも、バックアップ電源、インターネットのバックアップ、通信ツール、現地での明確な意思決定権限があれば、本社と連絡が取れない状況でも事業継続が可能です。緊迫した状況下では、事業の停止や従業員の避難が必要となる場合もあります。

4. 事業継続の文化醸成

リーダーシップ研修や各部門への説明会などの施策は、社員がBCPを理解し、自らの業務に適応することを促します。また、意識向上に向けたキャンペーンも事業継続の文化醸成・定着化を促進する効果があります。

5. 多言語対応のコミュニケーション

現場で働く全員が、英語や親会社の言語を話せるとは限りません。緊急時に誰一人取り残さないためには、テキストアラートや専用電話回線などを活用した多言語での情報発信が重要です。また、緊急時用ガイドラインの多言語版を用意しておくことで、実際に災害が発生した際やその後の対応フェーズで役立ちます。

6. 地域社会との連携

大使館、業界団体、地域コミュニティとの連携は、危機対応力の強化につながります。例えば、予備車両や施設スペース提供などの支援は、地域社会と良好な関係を築き、地域全体の復旧を加速させます。このような連携は、共通の課題を政府や自治体に対して一体的に提起することにもつながり、広範な課題を迅速に解決することができます。

まとめ

自然災害やグローバルな混乱にさらされるインドにおいては、現地の事情を考慮し定期的に検証された強靭なBCPが不可欠です。特定の災害に特化した計画から、リソースに焦点を当てた戦略へと移行することで、対応の柔軟性が高まります。リスク評価の徹底、包括的なコミュニケーション、そして地域社会との連携は、従業員の安全確保、業務停止時間の最小化、事業継続の実現に寄与します。急速に経済成長が進む一方で、複合的なリスクを抱えるインド市場において、強靭なBCPは競争力と長期的なレジリエンス(回復力)を支える重要な要素です。

コントロール・リスクスでは、インドなどの海外拠点におけるBCPや、グローバル全体でのリスクマネジメント体制・仕組みづくりの支援を行っています。ご相談などございましたら、下記フォームよりお気軽にお問合せください。


執筆者: Ankit Sabharwal , 石垣直久

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