変化するオーストラリアの投資環境

変化するオーストラリアの投資環境


ポートフォリオのリスク分散と、安定した収益を求める民間資本が流入し、オーストラリアへの投資が活発化しています。オーストラリアは比較的安全な投資先として注目されてきましたが、以下のようなリスクも無視できません。

  • 米中対立における地政学的な位置づけ
  • ESG規制の強化
  • 再生可能エネルギー領域の不安定さ
  • 少子高齢化と労働生産性の低下が長期的に与える影響

本記事では、オーストラリアにおける投資機会を評価する際に考慮すべき点や、投資の成否を左右する要因について解説します。

地政学的リスク

オーストラリアは比較的安定した政治環境にありますが、米中間の緊張関係の影響を完全には免れていません。オーストラリアはアジアにおける主要な米国の同盟国としての役割と、中国にとって戦略的な貿易相手としての役割のバランスを維持する努力を続けてきました。しかし、2020年には外交的緊張が高まり、中国は幅広いオーストラリア産品に対し貿易制限を課しました。

中国からの需要は減少したものの、最近、中国は関係を正常化しようとしており、2024年3月にはオーストラリアのワインに対する関税を撤廃しました。中国市場の魅力は依然として強く、オーストラリア企業は、中国市場に再び大きく依存する可能性があります。

現実には、両国間の貿易を円滑にするための長期的かつ構造的な障壁が依然として存在しています。オーストラリア政府は、中国からのリスクを管理することを政策目標の一つとしており、他の市場からの投資を促進するインセンティブを提供するとともに、中国からの投資の一部に対して遅延や停止の措置を講じています。オーストラリア政府は、国家利益に合わない投資には規制を強化しており、特に同盟関係がない国の企業からの投資を制限することがあります。

さらに、オーストラリア政府は、重要鉱物関連の投資に対する保護措置を強化しています。例えば、2023年に外国投資審査委員会(FIRB)は、中国関連企業によるオーストラリアのリチウム鉱山買収を阻止しました。今後は、地政学的にオーストラリアと同盟関係にある国からの投資が積極的に誘致され、一方で同盟関係にない国の企業による競合入札からは保護される可能性が高まっています。

オーストラリアへの投資を検討する際には、対象企業が参入している市場を理解することが極めて重要です。また、潜在的な事業多角化の選択肢についても詳細に把握する必要があります。さらに、オーストラリアと地政学的に対立関係にある国の企業との関係を持つ企業への投資は、たとえ間接的な関係であっても、外国投資審査委員会(FIRB)からの承認を得られない可能性があることを認識する必要があります。

ESGデュー・デリジェンスの重要性

オーストラリアは、反汚職や人権問題などの分野で、EUや米国よりも厳格ではないとされてきました。しかし、近年ではESG基準が重視されるようになり、コーポレートガバナンスへの期待も高まっています。特定の基準を満たせない企業は、規制当局、アクティビスト、公益団体など多くの利害関係者からのプレッシャーに直面しています。ESGの重要性が増していることを認識していないと、企業の評判や価値に影響を与える可能性があります。

オーストラリアの規制当局は、執行能力を引き続き強化しています。2023年には、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)がMercer社に対してグリーンウォッシングの事件で1,130万豪ドルの罰金を科しました。企業規制当局は、2024年内に他のグリーンウォッシング案件も取り締まる意向を示しています。また、投資家を守るために、リスクの高い訴訟戦略を追求し、法廷での敗訴も受け入れる姿勢を明らかにしています。こういった背景から、投資対象となる企業のガバナンスやサステナビリティへの理解がますます重要になっています。

アクティビストも資金を活用して積極的に企業戦略に提案を行っています。オーストラリアの億万長者マイク・キャノン・ブルックス氏は、保有するエネルギー会社AGLの株式を使って取締役を交代させ、新たな脱炭素化コミットメントを引き出しました。彼はAGL社のESGランキングが低く、機関投資家が少ないことも指摘しました。他の株主の動向を把握することは、会社の戦略や期待リターンに影響を与える可能性があります。

賢明な投資家は、企業が既存のESG基準、および将来設定される可能性のあるESG基準や予想されるESG基準を遵守していることが、投資評価において重要であると認識しています。企業のESG要件に対する実績や内部アプローチを精査することは、取引前デュー・デリジェンスにおいて極めて重要な要素です。同様に、投資対象企業がアクティビストや公益団体の標的となるリスクを把握することも重要です。

再生可能エネルギー

オーストラリアでは、近年再生エネルギー関連のプロジェクトが急速に増加しています。連邦政府の一部の反対派が原子力発電所に関して強い発言を行っている一方で、オーストラリアの州政府や連邦政府は、再生可能エネルギー関連プロジェクトを引き続き支援する予定です。200億豪ドル規模の「国家への再配線」プログラムからビクトリア州による一般家庭への無利子太陽電池ローンまで、多様な投資奨励策が講じられています。特に、バッテリー分野は重要な領域であり、2023年にはオーストラリアにおける大規模バッテリーへの投資が過去最高を記録する見込みです。

コントロール・リスクスは、オーストラリアにおける再生可能エネルギー関連プロジェクトに関する取引前デュー・デリジェンス支援を多数行ってきました。再生可能エネルギー関連プロジェクトは、事業拡大のペースや規模、利用可能なインセンティブが大きいため、創業者の経歴に問題が見受けられたり、経営陣の経験が不足していたり、最終的な所有権が不透明または非開示であるケースも確認されています。

再生可能エネルギー分野の投資機会を検討する際には、投資対象の関係者のバックグラウンドや評判を理解することが重要です。ESG基準の現代奴隷制度がサプライチェーンにどのような影響を与えるかを評価し、その会社がどのようにリスク管理を計画しているかを把握することが求められます。

少子高齢化と生産性の低下

オーストラリアは比較的安定した国ですが、長期的な投資戦略を考慮する際には、オーストラリアのビジネス環境が変動する可能性を慎重に評価する必要があります。特に、高齢化の進行と生産性の低下が、オーストラリアの安定した基盤にどのような影響を及ぼすかを十分に検討する必要があります。

オーストラリアの労働生産性は最近60年ぶりの低水準を記録しており、日本と同様に生産性の低下は大きな課題です。高齢化傾向を考慮すると、労働生産性の改善には大規模で体系的なプログラムが必要であり、政府の支援や介入が求められます。

オーストラリアの二大政党であるオーストラリア労働党(ALP)と自由国民党(LNP)が獲得した第一優先票のシェアは、2007年に両党合計で85.5%を獲得して以来、連邦選挙のたびに低下しています。2022年には、両政党の第一希望得票率の合計が68.3%となり、2007年以来最低値を記録しました。オーストラリアの生活水準が低下した場合、有権者が二大政党から離れ、少数政党政権が増加し、連邦選挙ごとに政策の確実性が低下する可能性があります。
投資家は、投資対象がこのような逆風に直面する可能性を認識し、オーストラリアの規制や事業環境の安定性に、どの程度依存しているかを適切に評価する必要があります。

コントロール・リスクスは、長年にわたりオーストラリアで事業や投資を行う企業を支援してきました。オーストラリアの規制やカントリーリスクに関する専門家や、取引前デュー・デリジェンスやESG、再生エネルギー関連の専門家が多数在籍しています。詳細情報やご相談がございましたら、下記フォームよりお問い合わせください。

 

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