新興国の再生可能エネルギー事業への投資とリスクマネジメント

新興国の再生可能エネルギー事業への投資とリスクマネジメント 


 

アジアにおける再生可能エネルギー事業は、地球規模の気候変動に対する解決策として、近年、投資家や政府から大きな関心を集めています。しかし、あまり知られてはいませんが、新興国における再生可能エネルギープロジェクトの一部には、環境・社会・ガバナンス(ESG)リスクの増大を含めた潜在的なトレードオフがある場合があります。民間企業がアジアの再生可能エネルギー事業に参画し、それを成功に導く上で、どのような点に注意して事前のリスク評価を行うことが望ましいのでしょうか。


再生可能エネルギー市場の隆盛


現在、世界のエネルギーシステムの脱炭素化が急務となっています。再生可能エネルギーは、世界で増大するエネルギー需要や気候変動問題に対処するための有力な解決策として注目を集めています。従来、再生可能エネルギープロジェクトの二大市場は中国とヨーロッパでしたが、現在は、エネルギー生成コストの急速な低下により、アジアの新興国も世界の再生可能エネルギー市場を牽引しています。例えば、東南アジアにおける再生可能エネルギー容量は、ベトナムがトップで、タイ、インドネシア、マレーシアと続きます。一方、インドでは、2030年までに再生可能エネルギー容量を450ギガワットにするという果敢な目標に向けて、太陽光発電や風力発電の規模を急速に拡大しています。これらの国のほとんどは、石炭に大きく依存していた発電方式を、ガス火力発電や再生可能エネルギーに移行しています。

しかし、これらの国の中には、再生可能エネルギープロジェクトに関連する隠れたESGコストやトレードオフについて、十分に理解していないように見受けられる国もあります。当該国の政府は、再生可能エネルギープロジェクトを活用することで、投資対象国としての国際的な評価を他国よりも高め、公共インフラプロジェクトに新たな魅力的な枠組みを創出し、石炭への依存を続けることに対する国際的な批判を和らげることに注力しています。

隠れたコスト


環境や人権への配慮が不十分な国で再生可能エネルギーへの投資が拡大するにつれ、低炭素社会への移行に必要な鉱物を採掘する企業における人権侵害疑惑も浮上しています。例えば、ロンドンに拠点を置く人権団体Business & Human Rights Resource Centreが2019年に行った調査では、サプライチェーンにおける労務環境問題が再生可能エネルギー分野と関連している可能性があるとして、チリ、ザンビア、コンゴ民主共和国(鉱物資源の多くを産出)がホットスポットとして取り上げられました。同様に、アジアの新興国市場では、再生可能技術への理解が十分ではないため、政府のインセンティブ制度が誤算となり、利益よりも損害が大きくなる可能性もあります。以降でこれらの問題を掘り下げてみます。

  • 不十分な環境クリアランス関連法令
    再生可能エネルギーは、化石燃料に比べて低炭素である一方で、森林や生物多様性の損失、水資源の枯渇など、長期的な環境への負荷に対する懸念が存在しています。しかし、一部の国では、大規模なプロジェクトに対する環境審査や公開協議が免除されている場合が見受けられます。インドでは、大規模なプロジェクトは政府の制度によって奨励され、迅速に進められる傾向にあります。また、2020年に発表された環境影響評価規則の新たな改正により、大規模な太陽光発電所(インドの太陽光発電容量の大部分を占める)では、このような評価を行う必要はないとされています。

  • 土地と人権のリスク
    多くの再生可能エネルギープロジェクトは土地集約型であることから、アジアのいくつかの政府は、土地取得に関するインセンティブを発表しています。ベトナムでは、再生可能エネルギー事業者に対し、プロジェクトのライフサイクルを通じて、迅速な土地リース承認やその他多くの税の優遇措置を提供しています。このように、開発事業者や投資家にとってはアクセスが容易になる一方で、用地を選定する際に地域社会への影響を考慮しなかった場合、事業運営上の長期的なリスクや評判の低下を招く可能性があります。このような政策は、土地をめぐる競争を激化させるのみならず、ガバナンスや公正性に対する課題とも密接に関連しています。また、世界的に見ても、再生可能エネルギーの導入は、先住民族コミュニティに影響を与えています。上記人権団体の調査では、過去10年間に、再生可能エネルギープロジェクトに関わる土地および先住民族の権利の侵害、移住、暴力、脅迫に関する申し立てが200件以上になるとされています。  

  • コミュニティとの協議の欠如
    再生可能エネルギープロジェクトを実行する際に、地域社会の認識や関与が不足していると、地域の不安を引き起こし、さらには法的な問題を引き起こす可能性があります。このような問題により、インド、ベトナム、ミャンマー、インドネシアなどでは、開発プロジェクトが却下されています。遅延の原因となるだけでなく、高額な訴訟費用や、地域社会への補償などにより、プロジェクトのコストが大幅に増加する可能性があります。特に、プロジェクトが円滑に実施されないことで、運用が困難になるリスクが高まり、長期的に資産の価値が損なわれる事態に発展します。

  • 労働者の権利の侵害
    新型コロナウイルスのパンデミック以降、いくつかの新興国市場では、マクロ経済の成長を加速させるために、優先分野への外国人投資家の誘致や既存の労働規制(特に最低賃金や労働安全衛生に関する規制)の緩和を進めています。しかし、このような政策は、太陽光発電産業のサプライチェーンにおける労働者の権利の侵害を悪化させる可能性があり、例えば再生可能エネルギー施設で使用する機器を製造する工場や主要な鉱物を提供する鉱山などにおいて問題が発生することが想定されます。

日系企業・投資家のための統合的リスク管理アプローチ

土地に関するガバナンスや人権保護の取り組みが不十分なアジアの新興国市場に再生可能エネルギープロジェクトが移行し続ける中、今後数年間でこれらのリスクが拡大する可能性があります。企業側は、新興国政府がこのような課題に適切に対処し、企業が直面するリスクを軽減してくれることを期待していますが、強力なESG関連のセーフガード措置を実施している事例はこれまでのところあまり多くありません。

世界の投資家やエネルギー開発事業者が、再生可能エネルギー事業に潜むリスクを適切に認識して対処しなければ、直ぐに評判が悪くなるだけでなく、長期的にはこのセクターの競争力そのものを損なう可能性もあります。企業は、ESG関連リスクを適切に管理するために、人権とコミュニティのリスクを精査するための事前調査・評価を含めた統合的なリスク管理アプローチを採用する必要があります。

コントロール・リスクスは、社会(Social)やガバナンス(Governance)に関するリスクマネジメントプログラムの設計と実施支援、そしてESG関連課題への対応の支援経験から、国際的に認められているベスト・プラクティスの基準やフレームワークに基づいた方法論を、産業や地域に合わせて適切にカスタマイズして活用しています。このアプローチは包括的なものであり、ESGリスクの洗い出しや特定、デューデリジェンス、リスク軽減に向けた対応策の策定と実施、長期的なモニタリング、キャパシティビルディング、危機や事故への対応などで構成されます。

リスク調査・評価のポイント

再生可能エネルギー事業への参画における事前のリスク調査・評価のポイントは国・地域により異なりますが、例えば次のような点を考慮して適切に設計されることが推奨されます。また、リスクを評価する際は、必要に応じて「リスクシナリオ」を複数検討し、当該リスク評価の変化可能性を適正水準で事前に検証することも推奨されます。

  • 対象国・地域・土地の特性
    - 再生可能エネルギー市場への現地政府の姿勢や支援、これらの変化可能性
    - 外資系企業の参入に対する現地の反応、協力を得られる可能性
    - プロジェクト実施地域のコミュニティに起因するリスク
    - プロジェクト実施地域の治安情勢(短期~中長期の変化可能性)
    - 気候変動の影響、自然災害のリスク
    - ライセンス取得に起因するリスク(汚職・腐敗を含む)
    - 対象国・地域における注目されているリスク動向(例:人権問題、経済制裁)
    - 使用予定の土地の取得における潜在的な問題とその深刻度合い、他 
  • 対象企業(現地事業パートナーや出資先など)の特性
    - 再生可能エネルギーにおける実績、評価、評判、運営能力、技術能力
    - 再生可能エネルギー以外の事業の状況と財政状況
    - 現地規制当局、政治家、軍などとの関係性
    - 事業展開国・地域
    - 経営者の能力、人物像、評価、評判
    - 企業カルチャー(ESG関連リスクに対する)
    - 株主(最終受益者)の素性や影響力の実態
    - ESG関連リスクの防止に向けたガバナンスの体制や実効性
    - 土地収用の実行方法に関連する懸念情報
    - コンプライアンス面の懸念情報(訴訟や行政処分も含む)
    - 自然災害による被害防止に向けた対応能力や姿勢、他
  • 外部ステークホルダーの特性
    - 現地議会、特定の政治家、現地有力者によるプロジェクトの阻害/支援可能性
    - 共同事業パートナーのリスクプロファイル(例:経済制裁の適用可能性、評判など)
    - ESG関連の問題に対する活動を展開する各種団体の関心度合い
    - 汚職防止当局の当該プロジェクトの腐敗状況に対する懸念や関心度合い、他
  • 自社のリスク選好や情報開示の特性
    - 海外投資活動に関しての自社のリスクテイクの基準や姿勢(これに応じてリスク調査・評価の構成・深度・範囲等が調整されます)
    - 情報開示に際して調査を行っておくべき事項、他
  • 事業規模や出資比率等の観点
    - 出資比率
    - プロジェクト規模、他

再生可能エネルギー事業者におけるガバナンスと、プロジェクトのESGリスクの間には関連性があります。現在、弊社のクライアントの多くから、事前のリスク調査・評価の際に、現地事業パートナー企業の文化やリーダーシップの実態に対する理解も深めたいとする相談を多くお寄せいただいています。経営陣の性質やマネジメントの実態を適切に評価することで、企業がどのように統治されているか、「トップのトーン」がどのように設定されているかについて、重要な洞察を得ることができます。

コントロール・リスクスは、日系企業の新興国における再生可能エネルギー事業への参画や投資の成功に向けて、これからも力強くご支援を続けて参ります。ご関心をお持ちの企業様は、弊社日本法人までぜひお気軽にお問い合わせ下さい。

 

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