今こそ「ESGデューデリジェンス」を正しく理解する

今こそ「ESGデューデリジェンス」を正しく理解する


Author:  Rosie Hawes

ESG格付け評価に頼ってはいけない理由

新たなビジネスチャンスを検討する企業にとって、ESG(環境・社会・ガバナンス)は最優先課題です。要求がますます厳しくなるステークホルダーを前に、自社のレピュテーションを守る必要性があり、コンプライアンス遵守の要求も高まっているからです。しかしこれらに対応することは、コンプライアンスを支援するツールがさまざま生まれているにもかかわらず容易ではありません。コントロール・リスクスでは、コンプライアンスのためだけにESGに取り組むことが、実は企業のESG戦略やステークホルダーからのレピュテーションを最も損なう行為だと考えています。ESGに即効性のある解決策はありません。本稿では、その理由を深掘りしていきます。

 

フレームワークと格付けの「沼」

規制はその場その場で発展してきたため、一連の複雑な要求事項が生まれ、それに伴って数多くの自主的なフレームワークや目標、基準も作られました。コンプライアンスを支援するために作られたはずのフレームワークですが、あまりに多いために、どのフレームワークをどのビジネスを展開する際に参照すればいいのか分からない、という混乱を生んでしまっています。

さらに事態をわかりにくくしているのが、ESG スクリーニングを行う格付け機関です。データに基づいた判断指標を意思決定者に提供していることが多いのですが、深刻で時に明白なESG上の間違いを特定できずにいることに世間の批判は高まっています。例えば、後に「現代版奴隷制」と批判を受けるような企業に高い評価をつけてしまうケースです。

複数の現場関係者への慎重な調査に基づいたレピュテーション・デューデリジェンスは、時間や費用がかかることが多いかもしれませんが、内部の力学や隠された不正行為についての洞察を得ることができます。公開情報や投資先自身が開示した情報は全体像の一部でしかありません。その場しのぎのESGスクリーニング・ソリューションを利用する企業は、不十分または不正確な情報に基づいた意思決定をすることで自社の立場を脆弱にしてしまいます。

コントロール・リスクスのお客様からも、ESG格付け機関から 高い評価を受けるには何が必要か、自社と相性のいい格付け機関はどれか、といった問い合わせをいただくことがあります。現行の評価システムはあまりに悪用されやすいため、我々は、今後はデータに基づいたESG 格付け評価が、本来の目的にかなうものとして企業に受け入れられるように変化していくと予測しています。

 

まずは自社のビジネスを見つめ直す

乱立するESGに関する情報やガイダンスは、新たな取引関係を作ろうとしている企業にとって重要なリスクです。間違ったガイダンスに頼ったり、不完全な情報に基づいた決定を下してしまったりする可能性があります。強固なESGコンプライアンス・プログラムを導入しているように見える企業が、誤解を招く発言をしたり、企業倫理や投資判断を遵守しなかったりすることで罰金を科せられる、といったことがトップニュースとして報じられることが増えています。

投資先やサプライヤーの候補を調査、選別する企業にとって、最初の取り組みは自社のビジネスを見つめ直すところから始まります。サステナビリティ(持続可能性)に対する自社の姿勢はどうか、「超えてはならない一線」は何か、どの時点でチャンスはリスクとなるか、などです。セクターや自社でのESGの位置づけに基づいて、何が倫理的あるいは適切と考えられるか、といった指示がほとんど/全くないまま「ESGについてちょっと調べてほしい」と依頼されることがよくあります。例えば、石油やガスの大手企業と医療機関とでは優先事項が違っているはずです。

 

 

優れたESGデューデリジェンスは新たなレピュテーション・デューデリジェンス

新しい取引先や投資の候補先の本質を見抜くには、以下の3つの方法があります。

  • 標準化されたアンケートやインタビューなど、相手方からの開示情報
  • ESG格付け情報
  • ESGに焦点を当てたレピュテーション・デューデリジェンス

投資先やサプライヤーの候補にどれだけ情報開示やESGコンプライアンスの詳細を要求できるかは、自社がどれほど候補先との関係に影響力を持っているかによって異なります。ただし、どの候補先も、投資やビジネスを確実に獲得するために、開示する情報を限定しようとする強い動機は残念ながら存在します。企業が、例えば脆弱な経営文化や環境関連での違反の記録などを隠蔽するのは昨今困難とはいえ、レピュテーションを最も傷つけるような行為は手遅れになったときに初めて明るみに出るものです。

重要性が低く、非戦略的な取引関係の場合、サプライヤーが自社のサステナビリティに対する基準を守るかどうかの判断は、ESG格付け評価と企業の代表者への問い合わせで十分かもしれません。ESG格付け評価の大部分が企業による開示情報に基づいている場合は、前の段落を再読してください。

自社のレピュテーションを左右する可能性のある取引関係については、贈収賄や汚職の懸念に対するデューデリジェンスで企業が日常的に行っているように、一手間かけて相手の業務を360度見渡すことが、誠実さを保証する唯一の方法です。

 

リスクに基づいたアプローチをとることで、取引候補先にこのようなデューデリジェンス調査を実施するべきかどうか判断することができます。例えば、以下のような視点です。

  • 本拠地はどこか?: 発展途上の市場における公開情報は、たいてい主要な意思決定を下すには不十分です。またハイリスク国・地域にある企業の格付けは、信頼性があるデータを幅広く参照しているとはあまり考えられません。
  • 何をする企業なのか?:その企業のビジネス活動に贈収賄や汚職の懸念があるなら、ESGの観点からも同様の懸念が考えられます。
  • 自社にとってこの取引関係の意味は何か?: この取引関係は、自社のサプライチェーンやポートフォリオにとってどの程度重要なのか、この企業が自社の要求にどれほど厳密に合致する必要があるか、問い直してみましょう。


不十分な内部統制や脆弱な組織文化は強い相関性があります。怠慢やキックバックなどの好ましくない慣習に目をつぶる態勢があわさると、その企業のサステナビリティや誠実性は損なわれます。そのような慣習が存在するのか、特定の国・地域や業界ごとのリスク、規制の厳しさを反映した徹底的なデューデリジェンスによって理解することで、相手の全容を明らかにすることができます。

 
継続的な対応の重要性

候補先のレピュテーションとESGコンプライアンスに満足し、手続きを進めることを決定したとしても、そこで終わりではありません。定期的に取引先をモニタリングし、その事業環境に変更を加えることは大きな変化をもたらします。例えば、中国のサプライヤーで繰り返される環境規制違反に関連した工場閉鎖、また新型コロナウイルスによるサプライチェーンの遅延は、世界的に大きな課題となっています。サプライヤーの環境上のコンプライアンスを理解し、定期的に検証することは、サプライヤーのESGに起因した混乱に迅速に対応し、また、このような混乱が自社のビジネスにどのような影響を与えるか予測する助けになります。

その結果として、企業はサプライヤーがどれほど環境リスクにさらされているか評価可能な、効率的で一貫したフレームワークを必要としています。問題を見つけたからといって取引を終えなければならないという意味ではありません。モニタリングや研修、他の契約事項などによって解決できるかもしれません。

結論として、自社の使命を考えることなしに規制だけを遵守したり、格付け評価だけに頼ったりすることは、企業を大きな規制上のリスクにさらすことになります。取引関係による潜在的なESGリスクに対して、深く一貫した理解を得るには、時間や人、システムに多大な投資が必要です。しかし、グローバルな取引先と持続的で信頼できる関係を確保することが自社のビジネスに与える影響は、そのコストに見合うものであることが多いのです。

昨今日本企業のお客様からも、ESGに関するご相談を多々いただいております。 ESGやコンプライアンス、デューデリジェンスについてご相談事項がございましたら、下記よりお問い合わせ下さい。

お問い合わせ先

DOTCOM - Japanese - Enquiry via Our Thinking articles
姓**
 
 
 
名**
 
 
 
会社名**
 
 
 
Eメール*
 
 
 
部署名**
 
 
 
役職*
 
 
 
*
 
 
 
電話番号
 
 
 
問い合わせ